世界地図とかわいそうなメアリー

前に世界地図のポスターを買ったので、部屋の壁に貼っている。およそ一年くらい経った。
世界地図を買ったのにはマツコ・デラックスが関係している。
マツコが出演している番組を観ると、マツコが地名や駅名をすらすらとそらんじている様子が度々うかがえる。
それに対して、わたしは小田急線の駅名くらいしかそらで言えないので(豪徳寺あたりは怪しいが)、これはイカンと思い、世界地図を買ったのだ。
Amazonで千円くらいのリーズナブルな価格だったのですぐに購入したが、なんと横幅が一メートルくらいある。
これだけ安いのだからあまり大きくないだろうと思い、サイズをちゃんと見ないで買ったのがいけなかった。先方はわたしのようにケチじゃない、心ある業者だったのだ。
壁面だけでスペースを確保しようと試みるが、どうしても窓とぶつかってしまう。しかたないのでカーテンのように窓を覆って貼った。
それ以降、遮光された部屋で世界地図のある生活を送ってきた。

これで少しは知的になるかしら、というアホ特有の動機で買ったものだが、それでも効果は多少ある。
今までは、ニュースで「〇〇でテロがありました」という報道があっても具体的に地球のどこにある土地なのかわからなかったので、あのへんかなぁとぼんやり思い出して、ニュースが終わればついに謎のまま放置していた。
世界地図の効用はこのとき発揮される。
地球のどこにある土地なのかわかるのだ。
まあ、それは当たり前のことだが、それとは別にわかったことがもう一つある。
「あの国はどこにあったっけ」という疑問は予想以上に頻発している。
テロといった政治的なニュースに限らず、旅行番組しかり、音楽番組しかり、現代では外国の地名に触れない日の方が少ない。
それらのものを見るたびにわたしは「それはどこだろう」と感じていたということである。そんな頻発する疑問をこれまで放置できたのも、ある意味大胆だ。
これを機に少しだけ地理の知識がついた。なにせ部屋の壁を見るとすぐに場所がわかるのだから、動線として確立せざるを得ない。スマホやPCで調べる手間は意外と大きい。
「ロシアがシリアを爆撃した」と報道されれば位置関係を確認できる。すると二国のあいだにある国は軍の通り道や駐屯地になっているかもしれないので、「どちらの国に加担しているのだろうか」と自然に発想できる。
中国の読み方がわからない地名もルビのおかげで覚えられる。
アメリカ映画には、「〇〇州まで車で行くぞ」とジョンが言って、メアリーが「あなた正気!?」と呆れるシーンがあるが、世界地図を見れば距離感がわかるので、メアリーに同情できる。

ふと、ある日の古い学友を思い出した。
どんな学校にも一人くらいは地理が好きで、どんな国の首都でもそらで言うことができる優れた人がいる。彼はその一人だ。
彼はいつも教科書に載っている地図を目で食らうように見ていた。
彼を見て「地図なんか見て、なにがおもしろいんだ」と、そのときは思っていたが、今わたしのしていることは彼の真似である。

世界地図、なかなかいいですよ。